観葉植物・ハイドロコラム

2022.08.31

虫の意外な使い道(2)

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科学技術の発達

コチニールがヨーロッパにもたらされてから数十年後、アントニー・ファン・レーウェンフックが顕微鏡を発明しました。レーウェンフックは歴史上はじめて顕微鏡を使って微生物を観察し、「微生物学の父」ともいわれています。この顕微鏡により、ようやくコチニールが昆虫であること、そしてサボテンに寄生していることが突き止められました。


コチニールの正体が虫であることが特定されると、サボテンを住処にすることもわかり、命がけで、かつ運よく手に入れることができた者もおり、自国の温室やインドなどの植民地で増殖を試みました。しかし、これもまた環境に合わず、ようやく手に入れたカイガラムシは死滅してしましました。英国キューガーデンを創設したバンクス(参照 コラムハイドロカルチャーの歴史(3) 観葉植物の歴史)も、コチニールの増殖を目指した一人でしたが、彼もまた増やすことはできませんでした。
結局のところ、1500年代半ばから、1800年代半ばまでのおよそ300年間にわたりコチニールに代わる赤い染料はありませんでした。この間に生産地域はジャワの一部やカナリア諸島へとわずかに増えただけで、相変わらずコチニールは貴重な染料であり続けたのです。

合成染料の発明

コチニールが最初にヨーロッパにもたらされてから約300年後の1856年に、石油由来の原料から世界初の合成染料が誕生しました。化学合成によって様々な色が次々と開発され、安価な合成染料はいち早く工業化を進めたドイツを中心にヨーロッパへ急速に広まりました。赤色も例外ではなく、衣服の染料として使われ始めると、コチニールの需要と取引金額は急速に落ち込みました。やがてコチニールやサボテンを生産していた農家は栽培する作物をより収益性の見込めるコーヒーやカカオに変えていくようになりました。

しかし、需要は全く消滅したわけでは無く、昔からの伝統を守っているメキシコなどの住民や、食品や化粧品の分野においては引き続きコチニールが使われていました。
現代では、リキュール、ワイン、ヨーグルト、キャンディー、フルーツ ドリンク、アイスクリーム、ケチャップ、口紅、マニキュア等、その品目は多岐にわたります。

用途を限定しながら現在も使われ続けているコチニールですが、2012年にアメリカである飲み物をきっかけに騒動を引き起こすことになります。

コチニールを巡る騒動

とあるカフェチェーンで提供されていたストロベリー味のフラッペは、鮮やかなピンク色を出しつつも人工着色料の使用を避ける為に天然素材のコチニール色素が用いられていました。
人工着色料を避け、オーガニックにこだわった上でこの材料を使ったのでしたが、これについて批判の声が上がってしまいました。
声を上げたのは、完全菜食主義者(ヴィーガン)の人々でした。



彼らは、動物が人の犠牲にならないよう、完全菜食主義者に優しい抽出物への切り替え要望し、インターネットの署名を集めました。1ポンド(約450グラム)のコチニール染料を生産するには、およそ7万匹のコチニールカイガラムシが必要になるといわれています。
そしてその後、完全菜食主義者の人々以外からも、昆虫の抽出物使用に不安を持つ消費者から多数の要望が寄せられたため、カフェチェーンの運営会社はその声に応え、原料を植物由来のものへと変更を行いましたました。
「天然着色料」や「オーガニック」と言われれば、自然のものなので、普通は木や草などを想像しますが、こちらは動物性の天然着色料であったため、そのこだわりが裏目に出てしまったと言えます。

その後これがきっかけとなり、他のメーカーでもその後コチニール色素の利用が減っていきました。コチニール色素は、トマトやクチナシ等の植物性色素、又は合成着色料に変更するケースが増えました。

ただ、今でも人工着色料を避けつつも、良い色を求める為に今でもコチニールは高級着色料として使われ続けています。日本でも、蒲鉾や饅頭、素麺など、日本特有の食材にも使われ続けています。



こちらは、つい先日私がお返しに頂いた素麺です。箱にはコチニールと書かれています。淡いピンクが和のテイストに合うのだと思います。昔から馴染みのある色ですね。もちろん、家族みんなで美味しく頂きました。

さいごに

このように観葉植物では一般的に害虫ですが、今でも伝統的な暮らしとしてこの虫が使われ続けています。
ペルーでは、今でも現地では、貴重な収入源としてカイガラムシの繁殖を行い、暮らしを支え続けています。以下はその農園の映像です。







草木など、様々な原料での毛糸の染色を紹介していますが、その中にコチニールが含まれています。(5:20頃)

また、コチニールの歴史については、こちらの本に詳しく描かれています。
ご興味のある方はどうぞ。
完璧な赤
エイミー・B・グリーンフィールド
早川書房刊