観葉植物・ハイドロコラム

2022.08.31

虫の意外な使い道(1)

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観葉植物についてしまう、代表的な虫

観葉植物につく代表的な害虫のひとつに、カイガラムシという虫がいます。
白い綿の様なものをかぶり、その下にはダンゴムシの様な殻に覆われた虫で、いわゆる殺虫剤などが体に届きにくく丈夫な害虫です。見た目からはちょっと想像つきにくいですが、カイガラムシは、カメムシの仲間になります。
植物に綿ボコリの様なものがもしついていれば、カイガラムシを疑った方が良いかもしれません。また、早期発見につながるよう、時々は植物の葉を拭いてあげましょう。

世界中の人々の生活と密接な関わり

現在の日本では観葉の植物の害虫として割と有名で厄介な虫ですが、実は私たち日本人のみならず、世界中の人々の生活と密接な関わりがありました。
カイガラムシは、体内で赤い色素を作り出します。この赤い色素は、コチニール色素と呼ばれています。コチニールの主成分は、カルミン酸と呼ばれ、耐熱性・耐候性に優れた性質があります。また、絵具ではこの色の事をカーマインと呼びます。


主に中南米で繁殖するカイガラムシは「コチニールカイガラムシ」と呼ばれ、成虫はメスで3mm程、オスはその半分になり、寄生するのはメスです。(別名でエンジムシ・臙脂虫とも呼ばれます。)
観葉植物につくカイガラムシとは種類が少し異なりますが、日本のカイガラムシもつぶすと血の様に赤くなるものがありますが、コチニールカイガラムシ程の赤にはなりません。虫はヘモグロビンを持ちませんので、人や動物の様な赤い血液はありません。

いつ頃から利用されていたのでしょうか

コチニールカイガラムシ、コチニール色素の利用は古く、紀元前、アステカ・インカ文明の頃から使われていたと言われています。メキシコ、ペルー等が中南米の主要な産地で、ウチワサボテンの葉に繁殖させます。

Breeding of the Cochineal (Dactylopius coccus) in Oaxaca, Mexico.
Breeding of the Cochineal (Dactylopius coccus) in Oaxaca, Mexico



欠かせなかった理由

コチニールは、16世紀頃の大航海時代に、スペインがアメリカ大陸に渡り、アステカ王国(現在のメキシコ)を征服し、存在が初めてヨーロッパへ知られることになりました。コチニール色素は、現地で採掘した銀などと共に、本国のスペインへ送られました。
当時、繊維産業は国の発展には欠かせない産業となっており、中でも発色の良い鮮やかな生地は、権力や豊かさの象徴とされていました。コチニール色素は、当時のヨーロッパにあった他のどんな赤い染料よりも鮮やかな赤色になる事から、上層階級の衣服などの染料や画材として欧州で需要が急増し、スペインに多大な利益をもたらしました。
それは、中世の絵画からもうかがい知ることができます。

15世紀半ばにフィレンツェで絶大な権力を誇った銀行家コジモ・デ・メディチ(1389-1464)はその死後、家族の依頼によって制作された肖像画において、全身に鮮やかな赤をまとっています。(16世紀はじめ、ヤコポ・ダ・ポントルモにより制作)



バロック画家、カラヴァッジョは、ミュージシャン(1595)等の作品でコチニールカイガラムシを使用しました。



ベルギー(当時はネーデルラント)を代表する巨匠、ルーベンスは、最初の妻であるイザベラ・ブラントを描くときにコチニールを使用しました。「イザベラ・ブラントの肖像」(1610)




原料の争奪戦

当時、スペインからしか手に入れる事の出来ないこの染料をヨーロッパ諸国は独自に手に入れようと考えました。中世ヨーロッパでは、各国間での争いがあり、自国の繊維産業の発展には、他国に頼ることなく自前で染料を手に入れることが欠かせなかったのです。
それには先ずこの染料が一体何から取れるものなのか、その疑問の解消から始めなくてはなりませんでした。



乾燥した粒を見て、ある者は植物の種と言い、ある者は虫と言いました。しかし、はっきりしたことは、この時にはまだわかりませんでした。スパイ行為やスペイン商船への海賊行為等、ありとあらゆる方法で入手を試みますが、一時的に染料自体を手に入れることはできても、染料の正体にはたどり着くことはまだできませんでした。